Expansionのジレンマ.

日本とASEANが,政府間のEPA経済連携協定)交渉で合意したというニュースが流れたのが,確か一週間か10日ほど前の話だったか.
偶然見ていた国営放送のニュースで,これまではASEAN内の個別の国々とEPAを発効していた日本が,ASEANと包括的なEPAを発効させることによるメリットを解説していたけれど,これは地域統合の理論でいうところの「貿易創出」を説明したものになる.

地域統合の理論では,EPA(FTA)のように関税を撤廃することの効果は大きく分けて二つ.
1つが上で述べた「貿易創出」
もう1つが「貿易転換」
要約すれば,前者がコストの安い輸入財が輸入されるという意味でプラスの効果,後者は逆にコストの安い輸入財からコストの高い輸入財に転換されるという意味でマイナスの効果と考えてもらうといい.
これが述べられたのが50年以上前の論文になる.
いわばこの分野では古典の理論になるのかな.

その後,「貿易転換」はExternal Tariff(例えばEUの日本製品に対する関税のように地域統合がブロック外にかける関税)を最適な水準に調整すれば軽減されるという議論を経て,では,世界を均等なブロックに分割するとして幾つのブロックが最も最適なブロックになるのか,という論文が発表されたのが90年代の初め.
当時はEC,NAFTAそしてアジアと3つのブロックに分かれるのではないかという情勢の中ブロックの数が3つのときが最も効用が下がり,全世界が1つのブロックにまとまった場合が最も大きくなるというこの論文は,現状に一石を投じるという意味では大いに価値のある論文だったのかなと.
おそらく,GATTWTOが模索している世界的な自由貿易体制の確立は,ここら辺が根拠となっているのかもしれない.

しかし,現状ではGATT,その後を引き継いだWTOでは,包括的な枠組み交渉が停滞している.それは,世界が包括的な自由貿易体制の中に組み込まれると,確かに全世界の効用は最大になるかもしれないが一国で見た時の効用は明らかに下がってしまう,特に先進国と呼ばれる国々ではその傾向が顕著になるからだ.
そんな論文を今日は読んでみる.

経済統合を形成することによって,参加国は効用が上昇し非参加国は効用が減少する.
ここにGATTが機能していない,あるいは今日のWTOが上手く舵取りが出来ていないという現実がある.

では,一国の効用低減を最小限に食い止めながら包括的な自由貿易体制を作ることは可能なのか?
あるいは,そうしたメカニズムを政策レベルで作り出すことは可能なのか?

疑問は増える.
自分の研究に活かすことはできんもんかいな.
とりあえず主要な論文のサーベイはこれで終いやから,あとは自分の机に持ち帰って研究あるのみ.